涙なくしては観られない映画「世界一キライなあなたに」。 香水にのせた愛する人へのメッセージ
悲しくて切なくて泣ける恋愛映画は数え切れないほどありますが、この「世界一キライなあなたに」も、胸が締め付けられるような思いがいつまでも後を引く作品の一つです。ハッピーエンドではないけれど、バッドエンドでもない。切なすぎる物語の最後に、一筋の希望が残される。そしてそこには、ある香水が登場します。この映画の象徴とも言えるその香水とは─?
2019年09月13日更新
記事の目次
[1]主な登場人物
・ウィル・トレイナー(サム・クラフリン)
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
元実業家で、お城に住む大富豪。事故で四肢麻痺となり、顔から下は全く動かすことができず車椅子生活を送っている。
・ルイーザ・クラーク(エミリア・クラーク)
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
カフェで働くファッションが大好きな26歳の女性。そのカフェが閉店し失業したため、新たな仕事としてウィルの介護をすることになる。
・ネイサン(スティーブン・ピーコック)
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
ウィルの看護師。公私ともにウィルを支える。
・パトリック(マシュー・ルイス)
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
走ることが大好き、スポーツオタクなルイーザの彼氏。長年付き合っている。
その他、ウィルの両親、ルーの家族もこの映画に欠かせない重要な役割となっています。
[2]あらすじ
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
イメケンで大金持ち、スポーツ万能、仕事もバリバリ、美しい恋人もいて、絵に描いたような勝ち組人生を送っているエリート青年実業家、ウィル。
そんな誰もが羨む彼が、バイクに轢かれ四肢麻痺に。自分で体を動かすことが全くできなくなった彼は、仕事を辞め、実家でもあるお城(!)で車椅子生活を送ることになります。
時を同じくして、イギリスの片田舎のカフェで働くオシャレが大好きなルイーザ。キュートで個性的なファッションと眩しいほどの笑顔は、見ているだけで楽しく明るい気持ちにさせてくれます。
しかし、カフェが閉店することになりルイーザは失業することに…。同じく失業中の父親と家族を支えるため、すぐに仕事を探します。
そして見つけたのは6カ月限定の介護の仕事でした。そう、ルイーザは動けないウィルのお世話係としてお城で働くことになったのです。
ウィルが事故に遭わず、ルイーザが失業しなければ絶対に出会うことがなかった二人は、ここで運命的な出会いを果たました。
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
生きる希望を失い、全てを諦めたような表情と冷めた態度のウィル。
これまでの何不自由ない華やかな生活が一変し、自分一人では何もできなくなった挙句、何かあるとすぐ体調を崩してしまう日々。心を閉じてしまうのも当然ですよね…。
最初はルイーザにも冷たく接するウィルですが、彼女の天真爛漫で真っ直ぐな性格が功をなし、徐々に二人は打ち解け、仲良くなっていきます。
事故に遭って以来、笑顔を見せなかったウィルが笑うようになり、少しずつ明るさも取り戻していきます。
しかし、彼はある固い決断をしていました。それは、半年後に“生きることを止める”という選択をすること─
尊厳死です。
そのことを知ったルイーザは、なんとか思いとどまってもらうべく、これまでに行ったことがない競馬やクラシックコンサートなどに連れ出し、生きることの喜びや楽しさを取り戻してもらおうと奮闘します。
そうこうしているうちに、ごく自然に恋心が芽生え、惹かれ合っていく二人。
出典 warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/
近場への外出だけでなく、パトリック同伴で外国旅行にも行き、ロマンチックで楽しい時間を過ごします。
その頃にはもう、お互いにかけがえのない存在になっていた二人ですが、ウィルは、この旅が終わったらスイスに行き、生きることにピリオドを打つとルイーザに伝えます。
私があなたを幸せにするからお願い、考え直してと懇願するルイーザ。
愛しているからこそ一生をかけてウィルを支えたいと願うルイーザと、愛しているからこそ彼女の人生を犠牲にしたくない、もっと広い世界で生きていって欲しいと訴えるウィル。
何よりこんな状況になった自分にはもう耐えられない、愛する人を抱くことすらできないんだ、と…。
二人の気持ちは平行線のままですが、果たしてウィルは尊厳死を選ぶのか、ルイーザの愛を受け入れ生きていくことを選ぶのか──。
[3]ウィルからルイーザへ、香水にのせたメッセージ
La Chasse Aux Papillons Extreme Eau De Parfum(シャッセ オ パピオン エクストリーム オードパルファン)
/L’Artisan Parfumeur(ラルチザンパフューム)
出典 latelierdesparfums.jp/l-chasse-aux-papillons-ext-edp-100ml
映画のほぼ終盤に差し掛かった頃、ここでようやく、意外な香水が予想外の登場の仕方をします。それが、ラルチザン・パフュームの「シャッセ オ パピオン(ちょうちょをつかまえて)」です。
映画を見る前にこの香水が登場すると知り、オードトワレを購入したのですが、実際は「シャッセ オ パピオン エクストリーム オードパルファン(究極のちょうちょをつかまえて)」が正解でした(※上写真)。
注)字幕では「パピヨン」とだけ表されるのですが、セリフでは「エクストリーム」と言っているのがわかります。
香り的に大きな違いはないようですので、ここではオーデトワレの方でレビューさせていただきたいと思います(※下写真)。
La Chasse aux Papillons Eau de Toilette(シャッセオパピオン オードトワレ)
/L’Artisan Parfumeur(ラルチザンパフューム)
出典 latelierdesparfums.jp/l-chasse-aux-papillons-edt-sp-100ml
トップノート:ベルガモット、ライムブロッサム、ピンクペッパー
ミドルノート:オレンジブロッサム、チュベローズ、ジャスミン、菩提樹
ラストノート:チュベローズ、イランイラン、カーネーション
前後の流れはあるものの、この香水は突如登場します。ウィルがルイーザに直接プレゼントしたというわけでもなく、二人の思い出の香りでもない。
ショップに並ぶ姿はぼんやり映し出されますが、香りについての描写は、ウィルが「君に似合う香りだよ」とルーに伝えるだけで、他の説明は一切ないため、いったいどんな香りなのか、観ている側の想像力が掻き立てられる印象的なシーンになっています。
私は映画を見る前にこの香りを確認していましたが、ジャスミン、イランイラン、チュベローズの濃厚で大人っぽい香りが最初からどっと押し寄せるわりに、都会的な華やかさではなく“田舎の花畑”の中にいるような素朴さを感じました。
重たいホワイトフローラルがメインなのに、とても軽やかでさっぱりして、太陽の匂いがしそうな陽光感のある自然な香りです。
確かにルイーザの性格や人柄によく似合うと思いますが、少し意外な香りでもありました。
私も映画を観ながらいくつか思い浮かぶ香水はありましたが、『L’Artisan Parfumeur(ラルチザン・パフューム)』というブランドが割と大人っぽいイメージだったので、どちらかと言えば童顔のルイーザにはあまりピンとこず、全く想像もしていませんでした。
でも、映画を観終わる頃にはもう「シャッセオパピオン」しか考えられなくなっているんですよね。
自分も周りも明るい気持ちにさせてくれる、あどけなさと大人っぽさが同居した香りは、まさにルイーザそのもののような気がしてきます。
しかしウィルが彼女に贈りたかったのは香水そのものではなく、田舎の片隅で一生を終わらせようとせず、自分の可能性を信じ、もっと広い世界へ飛び込んで行って欲しいということ。
この香水をつけて自分を奮い立たせ、新しい未来への一歩を踏み出して行って欲しい、というメッセージなんです。
ウィルは誰かに頼んでこの香水を手に入れ、直接ルイーザに手渡すこともできたはず。でも、そうしなかった。
ルイーザをフランスの『L’Artisan Parfumeur(ラルチザン・パフューム)』の店舗に行かせ、彼女自身に購入させます。
これもまた、自分の手で道を切り開いていって欲しいというウィルの思いの表れなんじゃないかなと思いました。
ウィルからルイーザへのメッセージの象徴でもある「シャッセオパピオン」。
蝶のように美しく自由に羽ばたいて行って欲しい…そんな想いも込められているかもしれません。
[4]映画を観てみて
この映画から受け取るメッセージや考えることは、とてもたくさんありました。
恋愛、尊厳死、事故、家族、仕事、生き方……
重いテーマだけではなく、「マイ・フェア・レディ」や「プリティ・ウーマン」のようなシンデレラストーリー的な要素もあるので、観ていて笑顔になる部分もとても多かったです。
ただやはり、
もし愛する人が事故に遭い体が動かなくなったら?
もし私がそうなったら?
もし愛する人が尊厳死を願ったら─?
と、ネガティブな「if」が絶え間なく頭をよぎります。
映画を観る時、たいてい男性は男性に、女性は女性に感情移入してしまうと思いますが、「世界一キライなあなたに」は、ウィルとルイーザ、どちらの気持ちも痛いほどよく理解できるので、二人分の感情にどっぷり浸かってしまい辛くもありました。
ただ、ストーリーとは別に、視覚的な見所が多いのもこの映画の魅力の一つです。
出典 eiga.com/official/sekakira/
例えばルイーザのファッション。
少しぽっちゃりした彼女の体型によく似合う個性的なファッションは、とてもキュートで楽しく、飽きません。蝶柄のワンピースを着ていたり、さりげない伏線も敷かれています。
抜群の笑顔は太陽のように明るく周りを照らし、こんな彼女がいたらいいなぁ…といつのまにかルイーザのことが大好きになっています。
また、事故に遭うまでは本当に輝かしい人生を送ってたウィル。
イケメンでお金持ちのセクシーな青年実業家…まさに完璧とも言える彼に似合う最高の香水は何だ!?と想像することも楽しく、事故に遭ってからも、お城に住む王子様みたいでカッコ良いですし、少しSっ気のある性格と、優しさとユーモアが滲み出た人柄が魅力的で、ウィルのこともどんどん好きになっている自分がいました。
出典 eiga.com/official/sekakira/
観ていて辛い部分もありますが、絵になる眼福シーンも多く、重たくなり過ぎず全体的にバランスが取れた素敵な映画です。
そんな作品に登場した唯一の香水、「シャッセ オ パピオン」。この映画を観て、どんな香りか確かめたいと思った方や実際に購入した方も多かったのではないでしょうか。
[5]愛する人へ、香水を
誰かのことを想い、その人に一番ふさわしいと思う香水を選ぶ。そしてその香りがその人を勇気付け、自分らしく生きていくための力になるとしたら、こんなに嬉しいことはないですよね。
香りには好き嫌いがあり、特に日本では香水文化が根付いていないこともあって、香水をプレゼントするということはハードルが高いと思う方も多いかもしれません。
ですが、香水を通して大切な人へメッセージを贈る─…こんな風景が当たり前になるといいなと思っています。
あまり香水に関心がなかった方でも、観ていた映画に香水が出てきて少し気になる、ということがあるかもしれません。
そんな時は、ぜひその好奇心に従って香りの世界の扉を開けてみてください。
一生モノの香水に出会えるかもしれませんよ。